抗IgE抗体療法(重症スギ花粉症に対する抗体療法)
はじめに
2020年より、重症・最重症のスギ花粉症に対して、2~4月限定で抗IgE抗体オマリズマブ(ゾレア®)を皮下注射する治療を行うことができるようになりました。
スギ花粉症によるくしゃみ・鼻水がとまらない・鼻づまりがひどいといった鼻炎症状が従来の薬物療法を行ってもおさまらず1日中鼻をかんでいるといった方、ヒスタミン薬の眠気が強く、より強力な効果が期待できる薬に変更・増量できないために鼻炎症状がおさまらない方にとっては検討する価値の高い治療です。
また、鼻症状だけでなく、眼のかゆみや充血などの眼症状も同時に抑えられると報告されています。
抗IgE抗体療法とは
まず花粉症の発症メカニズムを説明します。
①② スギ花粉が体内に侵入すると、スギ花粉が抗原と認識されて、ヒトの免疫防御 システムでIgEというスギ抗原と結合する抗体が作られます。
③ その後、再度スギ花粉が体内に入ると、IgE抗体がくっついてIgE-スギ抗原複合 体が生成され、生成されたIgE-スギ抗原複合体が免疫細胞の一つである肥満細胞 (マスト細胞)を刺激することでヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質が産 生・放出されます。
④ これらの化学物質が、鼻粘膜や眼粘膜にある受容体にとりつくことでアレルギー反 応を引き起こし、鼻水・くしゃみ・鼻づまり・目のかゆみなどの症状を引き起こす のです。
抗IgE抗体治療は、スギ花粉によって産生されたIgE抗体と結合し、IgE-スギ抗原複合体とマスト細胞の結合をブロックすることで、ヒスタミンやロイコトリエンなどの化学物質自体が放出されなくなりアレルギー反応を起きにくくするという、いわば花粉症の病気の流れを止めてしまう最新の治療法です。
今回使用する抗IgE抗体であるオマリズマブ(ゾレア®)は世界90ヶ国以上で使用され、日本でも2009年から気管支喘息の治療薬、2017年から蕁麻疹の治療薬として使用されているため、効果と安全性はすでに確認されている薬です。
治療の対象になる方
- 12歳以上の方
- スギ花粉症の方 スギ花粉症のアレルギー検査結果で、かつスギIgE抗体価がclass3以上の方に限ります。
※以前に行ったアレルギー検査結果で、スギIgE抗体価がclass2以下の方でも、スギ花粉が本格飛散している時期に検査を行うとclass3以上に変わることがあります。 スギ花粉症以外のヒノキだけの方、その他の花粉症の方、ダニやハウスダストなどの方は対象になりません。 - 昨年のスギ花粉症によるくしゃみ・鼻水・鼻づまり症状が重症・最重症の方
1日に出るくしゃみ発作の回数が11回以上・1日に鼻をかむ回数が11回以上・鼻づまりが非常に強く、1日のうちかなりの時間口呼吸をしている いずれかに当てはまる方は重症や最重症の可能性があります。 花粉症チェッカーでご自身の重症度を確認してみてください。
花粉症チェッカー - 昨年の花粉症でも抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン受容体拮抗薬などの内服薬と鼻噴霧用ステロイド薬で治療を行っていた方 昨年処方された薬を覚えておくか、昨年の処方がわかるお薬手帳などを持参してください。
- 今年のスギ花粉症によるくしゃみ・鼻水・鼻づまりが重症・最重症で、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン受容体拮抗薬などの内服薬と鼻噴霧用ステロイド薬を1週間以上使用しても症状が改善しない方
- 体重が20~150kgの範囲にあり、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン受容体拮抗薬などの内服薬と鼻噴霧用ステロイド薬を1週間以上使用した後に行ったアレルギー検査で、
総IgE濃度が30~1500IU/mlの範囲にある方
既存治療(1週間以上)が効果不十分なスギ花粉症であると診断した場合に、アレルギー検査で総IgE濃度を測定します。
※体重が重い方やアレルギー検査で総IgE濃度が30IU/ml以下及び1500IU/ml以上の方は、抗IgE抗体療法を受けることができない可能性があります。
上記の<1~6>のすべての条件を満たした方が抗IgE抗体療法の対象となります。
ご不明な点があればお気軽にご質問・ご相談ください。
治療の流れ
➀1回目受診時
- 昨年のスギ花粉症の症状が重症もしくは最重症であったことを確認します。
- 昨年のスギ花粉症に使用した内服薬や点鼻薬の種類を確認します。
- 採血でのアレルギー検査で、スギ特異的IgE抗体価を測定します。 (他院で行った1年以内のアレルギー検査で、スギ特異的IgE抗体価class3以上の結果が出ているものがあればお持ちください。)
- 1週間、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン受容体拮抗薬などの内服薬や鼻噴霧用ステロイド点鼻薬による治療を行います。
約1週間後
②2回目受診時
- アレルギー検査で、スギ特異的IgE抗体価class3以上の結果が必須です。
- 前回に処方した内服薬や点鼻薬の治療を1週間以上行っても効果が不十分で、スギ花粉症の症状が重症もしくは最重症であることを確認します。
- アレルギー検査で総IgE濃度を測定します。
数日後
③3回目受診時(または電話での事前連絡)
- 体重と測定した総IgE濃度から、抗IgE抗体療法が可能かどうかを判定し、今回使用するゾレア®の投与量と投与間隔の決定を行います(投与量や投与間隔で注射費用が変わります)。
- 注射費用を提示させていただき、抗IgE抗体療法を行うか最終確認を行います。
- 抗IgE抗体療法を行うことが決定したら、次回の受診日に合わせてゾレア®を購入します。
数日後
④4回目受診時(電話での事前連絡を行った場合は3回目受診時)
- ゾレア®を皮下注射します。
- その後は事前に決定した投与間隔(2週間または4週間)毎に注射していきます。
- 注射を行っている期間も、内服薬や点鼻薬の治療は続けていただきます。
治療方法
体重とアレルギー検査の総IgE値をもとにゾレア®の投与量が決定され、2週間または4週間おきに、1回あたり1~4本注射薬剤を皮下注射する治療です。つまり、約3か月間で3回または6回の受診が必要となります(症状や状況によって変わります)。
治療期間
基本的にはスギ花粉が飛散する2~4月に行いますが、少量のスギ花粉飛散期でも症状がでてしまう方などは、1月や5月に行うこともあります。
抗IgE抗体療法の副作用
一般的な注射と同じように、副作用のほとんどは注射した部位の反応で、発赤、腫れ、かゆみ、痛みなどですが通常自然軽快します。
また、多くのお薬にもその可能性があるように、ゾレア®にも稀ではありますがアナフィラキシーを引き起こす可能性があるため、初回投与後はクリニック内で30分間待機して頂き経過観察を行います。特に投与後2時間以内は重大な副作用が現れやすいとされていますので下記症状が現れた場合には速やかに医療機関に連絡してください。
アナフィラキシー症状
全身症状 | 冷や汗、脱力感、しびれ、めまい |
---|---|
皮膚の症状 | 蕁麻疹、そう痒感、紅斑や皮膚の発赤などが全身に現れる |
眼の症状 | 視覚異常、視野の狭窄 など |
循環器の症状 | 頻脈、不整脈、血圧低下(ふらつきやめまい) など |
消化器の症状 | 胃痛、吐き気、嘔吐、下痢 など |
呼吸器の症状 | 声がかれる、鼻がつまる、くしゃみ、喉のそう痒感、胸のしめつけ感、咳、呼吸困難、呼吸の音がゼーゼー・ヒューヒューするなど |
神経の症状 | 不安、恐怖感、意識の混濁など |
⇒特に緊急度が高い症状は、循環器、呼吸器、消化器、神経の症状です。
投与量・治療費用
体重とアレルギー検査の総IgE値によって、投与量や投与間隔が決まります。身体が大きくて、総IgE値が高い程費用があがり、通院回数が増えます。 1回あたりの投与量は75~600mgとなり、健康保険3割負担の方で4,444~69,953円の薬剤費が支払額に含まれます。
平均的な患者様のおおよその自己負担額
1回あたりの投与量が300mgのことが多く、平均的なモデルケース(3割負担)では、 4週間毎の投与(1シーズンに2,3回投与)となり、費用は1カ月17,488円となります。その他、診察料や処置料などがかかります。
尚、高額な薬のため医療費サポート制度(高額療養費制度)があります。1カ月の医療費の支払い額(自己負担額)が一定額を超えた場合に、超えた分の払い戻しを受ける制度です。加入している保険(国民健康保険、健康保険、船員保険、共済組合、後期高齢者医療制度)や、年収により条件が異なります。詳しくは加入している保険にお問い合わせください。
詳しい薬剤費については販売元のホームページをご覧ください。
治療費シュミレーターもご用意してありますのでご活用ください。
さらに詳しく知りたい方へ
詳しくは製薬会社NOVARTISのサイトをご覧ください。